JRA IPATの性能

あいつは足がかりをなくして、どうしようもなくなってしまう」Pは彼なりの奇妙な論法で、ひとつぐらいの欠点には目をつぶってやってほしいと周囲に訴えた。

「許してやってくれよ」と彼は、親友で競馬記者のD・Aにいった。 「おれにできないことはひとつじゃきかないし、おまえにできないことは、それよりずっとずっと多いだろう。
でなきゃ新聞記者なんてやってるわけがない。 おれとおんなじように、ジョッキーでSはまた、シービスケットの健康面も心配していた。
前にA競馬場で、この馬は重馬場での調教中に脚をすべらせ、自分で自分を蹴ってしまった。 過去に脚のトラブルを抱えていたことを知るだけに、Sは可能な限りぬかるみを避けたいと思っていた。
しかしすでにナラガンセットスペシャルヘの出場は発表されていた。 土壇場で出走を取り消せば、最初から走らせる気がなかったと見なされてしまうだろう。
Hはまたも、自分のイメージを守ることと、調教師の要望とのあいだに生じた矛盾で2者択一を迫られた。 彼は、自分のイメージが汚されるようなことをたやすく受け入れる男ではない。
かくしてシービスケットはけづめまで埋まる泥をかきわけながら、ライバルたちより9.1キロも重い荷を背負って走る羽目になった。 結果は3着。
歴史的な連勝記録更新の夢もそこで途切れてしまった。 Hは口々に責め立てられた。
シービスケットはほかの馬の跳ね上げた泥が、自分の顔にかかるのを嫌った。 「そんなのは絶対に嫌だと心に決めてしまったんだ」とSは説明している。
「しかも、あの馬はかなりの頑固者だ。 自分一頭だけなら、どんなにトラックが悪くても、すばらしい走りができる。
だがほかの馬の泥が顔に飛び散り、ことに耳にかかってくると、もうたくさんだと思ってしまうんだ。 いや、走るのをやめたりはしない。

ゴルフボールぐらいにでかい雷が吹きつけるワイオミングの嵐のなかでも、たぶん、走りをやめることはないだろう。 だが、なぜか全力を出しきれなくなる。
それに、意味もなく辛い目にあわせる必要がいったいどこにあるんだ。 ビスケットを出走させたのがまちがいだったのだ」とO・Oは書いた。
ほかの記者も、大多数が同意見だった。 「それでも出走した理由は定かでないが、東部に進出して以来つづいていたせっかくの不敗記録がストップしてしまったのは、なんとも残念としかいいようがない」非難の声はそのうちに静まった。

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